お墓参りに必要不可欠なものの代表と言えば、線香です。何はなくとも、線香だけはお墓に持って行く、というのが一般的ではないでしょうか。線香はスーパーやコンビニでも買えるので、たとえ持っていくのを忘れたとしても、どこでも買える手軽さもあります。実は、この線香、意味や扱い方をひも解いていくと、なかなか興味深いものがあるのです。
線香は、仏さまのお食事?
線香には、まず、お墓に訪れたことをご先祖様にお知らせするという意味があります。私たちは、ついつい自分視点で物を考えているので、お墓にいつ行こうが誰と行こうが、お墓の中のご先祖様は、いつでもスタンバイしていてくれると思いがちです。お墓は、いわば、亡くなった方たちのお住まいであるわけですから、家を訪問する時には、インターホンなり、呼び鈴なりを鳴らすのが常識です。いきなりよその家にずかずかと入り込んで行く人はいません。線香の香りは、呼び鈴のようなもの。これから、お墓をお参りしますよ、というお知らせです。
また、線香には、お清めの意味もあります。線香の香りが心身を浄化し、その場を浄めてくれるのです。そして仏教には、香食(こうじき)という教えがあります。死者は香りを食す、と考えられていることから、線香は仏さまの食物でもあるのです。
線香のお作法や線香立てについて
お墓で線香を仏さまに手向ける時、線香立てにお供えしますが、この線香立てにもいろいろな種類があります。立てるものと横置きで寝かせるものと、大きく分けてこの2タイプがあります。立てておくタイプの物には、筒形や香炉形のものがあります。立てておくタイプは、その性質上線香の灰が下に落ちますので、お掃除をこまめにする必要があります。筒形は、線香を束のままお供えすることができ、香炉形では、宗派によってお供えする本数が違っています。香炉形に1人ずつ順番に線香をお供えするときには、宗派ごとの作法があります。臨済宗、日蓮宗は、線香1本を香炉の中央に立てます。曹洞宗、浄土宗は、1〜3本を香炉の中央に立てます。浄土真宗は、線香1本を2〜3本に折り、寝かせます。天台宗と真言宗は、線香3本をお供えする方から見て逆三角形になるように、手前に1本、奥に2本立てます。線香の供え方や本数は、このように宗派によるところがありますが、お住まいの地域や、ご家族、ご親戚の慣習もありますので、臨機応変な態度も必要です。横置きタイプは、灰が下に落ちる心配はありません。お掃除が比較的しやすいという特徴があります。
線香に火をつける時は、ロウソクから火を移します。両脇に燭台が設置してあれば、右側のロウソクから火を移してください。直接ライターなどで、線香に火をつけることは避けてください。お線香を分ける場合は、故人に近しい方から分けます。お線香をお供えする向きですが、横にする場合はお供えする方から見て、左に火がついている部分がくるように置きます。お墓で灯した線香やろうそくは、そのままにすると出火の原因にもなりかねません。必ず、消してから還るようにしましょう。線香やロウソクの消し方として、直接息を吹きかけて消すことは、タブーとしています。これは、俗世の人間の息は穢れているということで、必ず線香やろうそくは手で仰いで消すようにしてください。
このように、本記事でご紹介した線香の正しい扱い方は一般的なものですが、線香の意味を少し掘り下げて考えてみるだけで、その奥深さに触れることができます。線香の意味に思いを巡らせ、正しい作法を知り実践することでお墓参りも心が引き締まり、気持ちのよいお参りになることでしょう。