お墓に刻まれた赤い文字を見たことがある方も多いと思います。墓石の文字に使用される色は、黒や白が多いこともあり、赤い文字は、それだけでとても目立つ存在です。どうしてこの文字だけ赤いのだろうと不思議に思った経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
お墓の赤い文字にはどんな意味がある?
お盆やお彼岸などで親族たちが一斉にお墓参りに集まると、お墓のお掃除をしながら、ふと墓石に刻まれた赤い文字のことが話題になることもあるでしょう。この墓石の赤い文字の意味は、存命中のあかしなのです。存命中の方の名前を刻印する場合は、赤い文字で刻むという慣習が昔からあるからです。それでは、なぜ赤色の文字なのでしょうか。
仏教では、お釈迦様のお体や、教えを五色(ごしき)、赤、白、黒、黄色、緑、で象徴しているのです。赤は、「お釈迦様の血液」を表しています。慈悲心が絶え間なく、すべての人々を救済するために精進するという意味があります。更に、白は「お釈迦様の歯の色」を表しています。清浄(しょうじょう)を意味していて、墓石では、とてもよく見かける文字色です。煩悩や悪業を浄めるという意味を持つと言います。そして、黒もよく使われる文字色です。これは、「お釈迦様の袈裟の色」で、耐え忍んであらゆる怒りを抑える忍辱(にんにく)を表しています。黄色は、「お釈迦様の身体の色」を表し、ゆるぎのない姿の金剛(こんごう)を意味しますが、文字色としてはあまり選ばれません。最後に緑ですが、「お釈迦様の頭髪の色」と言われ、落ち着きを表す禅定(ぜんじょう)を意味します。緑も墓石にはあまり見られません。
赤色で墓石に名前を刻む理由も、この五色という考え方からきています。古くは、出家した人が生前に戒名を受けた時に墓石に赤い文字で刻んだと言われています。お釈迦さまの仮の弟子として訂正を意味していた赤い文字の名残でもあります。現代では、生存するお墓の建立者をはじめ、生前戒名を赤い文字で刻む場合、俗名を赤い文字で刻む場合など、宗派、地域性が大きく関わります。
赤い文字を消す必要があるでしょうか
それでは、存命の意味が強い墓石の赤い文字ですが、赤い文字の本人が亡くなられた時には、どうすればいいでしょうか。赤い文字を消す必要はあるでしょうか。
生前戒名を赤い文字で刻んだ場合、亡くなることで仮の仏の弟子から、真実の仏の弟子になるわけですから、赤い文字を消すことが理にかなっています。実際、この時点で赤い文字を抜く場合が多いです。お墓の建立者については、赤い文字を抜くか抜かないかは、故人や遺族の意志になります。存命中の方と区別ができず、紛らわしいと考える際には、赤い文字を抜いても問題ないでしょう。
赤い文字を抜く際、その抜き方ですが、個人で剥離剤を購入し、赤色を落とすことも可能ですが、墓石を痛める恐れがあります。自分でいざやるとなると、不安な方もいるでしょう。そんな時は、無理に自分で赤色を抜くことはおすすめできません。墓石を建立した石材店に相談することが望ましいです。どうしても自分で赤い文字を抜く場合も細心の注意を払って抜いてください。
このように、お墓に刻まれた赤い文字の意味を考えてみると、仏教的な思想に由来した意味合いを含みながらも、ご先祖様や故人の生きた地域の慣習、考え方にも思いを巡らせることができます。実際に、墓石の赤い文字に絶対的な決まりごとはなく、地域や家族、親戚の思いが重要であります。次回、お墓にお参りされた時は、ぜひ墓石の赤い文字を確認してみてください。一族の歴史や思いに触れるとてもよい機会になると思います。